保育士の職場でのキャリアアップについて、処遇改善制度の一環として設けられた「保育士等キャリアアップ研修」があります。この記事では、その研修の概要や受講のメリット、役職につながる条件などをわかりやすく解説します。
保育士等キャリアアップ研修とは?
保育士等キャリアアップ研修は、保育士の職業内でのキャリアアップを促進するための取り組みです。これまで保育士の役職は限られており、園長や主任保育士に限られていましたが、この研修を受けることで、新たに「職務分野別リーダー」「専門リーダー」「副主任保育士」という3つの役職が設置されました。
これらの役職は、一般保育士と主任保育士の中間に位置し、保育園内での役割や責任を担うことが期待されます。保育士のキャリアアップ研修を修了することで、全国共通の資格が得られ、それに伴う役職への昇進や、職場内でのリーダーシップを発揮する機会が増えていくでしょう。
キャリアアップ研修によって、保育士のキャリアパスが多様化し、職場内でのスキルや経験を活かしたキャリア形成が促進されることが期待されます。また、保育士の専門性や資格取得の意欲が高まり、保育の質の向上にもつながるでしょう。
保育士等キャリアアップ研修の目的
処遇改善の実現
保育士等キャリアアップ研修の最大の目的は、保育士の処遇改善です。厚生労働省は、保育士の給与底上げを目指し、研修修了者に対して月額6,000円程度の処遇改善策を制定しました。
また、職務分野別リーダーや副主任保育士、専門リーダーにはそれぞれ最大で月額4万円の処遇改善手当が支給されます。
離職率の低減
もうひとつの主要な目的は、保育士の離職率を低減することです。過去の保育士の平均勤続年数が短かったことから、多くの保育士が主任保育士の役職に到達できずに離職していた状況が明らかになりました。このため、キャリアアップ研修制度では、3年や7年の節目を目途に役職を新設し、中堅保育士でも身近な目標となるようにしました。これにより、保育士がキャリアを積むモチベーションが向上し、離職率の低減が期待されています。
保育士不足の解消への貢献
保育士等キャリアアップ研修によって、保育士不足が少しでも解消されれば、待機児童問題の解決にも貢献することが期待されます。保育士の労働環境や処遇の改善は、保育士の定着を促し、保育士の供給を安定化させる一助となるでしょう。
キャリアアップ研修を受けるメリットとは?
キャリアアップ研修を受けるメリットはたくさんあります。
役職やキャリアの明確化
キャリアアップ研修を受けることで、保育士としての職務内容や責任が明確化され、組織内での役職が得られる可能性が高まります。
例えば、専門リーダーや副主任保育士などの役職に就くことで、現場での指導や管理業務を担当する機会が増え、自己成長やキャリアの発展につながるでしょう。
給料の改善
キャリアアップ研修を受けることで、処遇改善に伴う手当や特別給与の対象になる可能性があります。職務分野別リーダーや専門リーダー、副主任保育士などの役職に就くことで、給与が上がる可能性も。これにより、保育士としての労働条件が改善され、モチベーションの向上につながるでしょう。
専門知識の習得
キャリアアップ研修は、保育士の専門知識やスキルをさらに深める最高の機会です。
例えば、幼児保育や障害児保育、食育・アレルギー対応などの分野に特化した研修を受けることで、保育業務における専門性を高めることができます。これにより、保育の質の向上や子どもたちへのより良いサポートが可能になるでしょう。
転職やキャリアチェンジの支援
キャリアアップ研修修了証は全国共通であり、転職時や他の保育施設への移動時に有効な資格となります。研修修了証は無期限で保育士のキャリアパスを明確に示すことができるため、新しい職場での採用や昇進に役立つでしょう。
また、専門性の高い役職を持つことで、保育分野以外の施設や機関での就業機会も広がる可能性も秘めています。
自己成長とモチベーションの向上
キャリアアップ研修を受けることで、保育士としての自己成長を実感し、仕事へのモチベーションが向上します。新たな知識やスキルを身につけることで、日々の業務に対するやりがいや充実感が増し、職場でのパフォーマンスを向上させることができるでしょう。
新役職になるための条件
役職によって要件が異なりますが、研修の受講と経験年数が必要条件です。副主任保育士やリーダーへの昇進には、特定の分野の研修受講が求められます。
職務分野別リーダーになるには?
研修の選択と修了
保育士等キャリアアップ研修で提供されている職務分野から、自身が興味を持ち専門性を高めたい分野を選択します。例えば、「乳児保育リーダー」や「食育・アレルギーリーダー」などから選択。研修修了後には、選択した分野に関する職務分野別リーダーとしての発令を保育園から受け、正式に任命されます。
経験年数
職務分野別リーダーになるためには、約3年以上の経験が必要です。選択した分野での実務経験を積むことが重要になります。
自治体からの支援の利用
職務分野別リーダーに任命されると、各自治体からの保育園に対する処遇改善費としての補助金が支給され、本人にも処遇改善手当が支払われます。ただし、手当支給の対象となる職務分野別リーダーの人数の上限は保育園の規模によって異なるため、保育園と相談して利用する必要があるので注意してください。
現場での研修機会の活用
職務分野別リーダーになるためには、現場での研修機会を活用して専門性を向上させることが重要です。保育園内での研修やワークショップ、または外部からの講師を招いたセミナーなどを活用しましょう。
オンライン研修の利用
最近では、eラーニングやオンライン研修が導入されており、自宅や保育園での受講が可能です。自分のペースで学ぶことができるため、忙しいスケジュールの中でも研修を受けることができます。これを活用して、自己成長をしていきましょう。
専門リーダーになるには?
4つ以上の専門分野を修了
職務分野別リーダーの経験者が、保育士等キャリアアップ研修で4つ以上の専門分野を修了する必要があります。研修修了後、保育園から専門リーダーとしての発令を受けることで、正式に専門リーダーとしての役職に就くことができます。
経験年数
厚生労働省が想定する対象者の経験年数は、約7年以上です。専門リーダーになるためには、充分な保育の現場での経験が必要とされています。
処遇改善補助金の受給
専門リーダーとして認定されると、自治体から保育園に月額4万円の処遇改善補助金が支給されます。この手当は、専門リーダーへの処遇改善手当として支給されますが、対象人数には制限がありますので園と相談しましょう。
副主任保育士になるには?
3つ以上の専門分野とマネジメント研修を修了
副主任保育士になるためには、保育士等キャリアアップ研修で3つ以上の専門分野とマネジメント研修を修了する必要があります。これに加えて、職務分野別リーダーの経験が必須です。
経験年数
副主任保育士になるためには、おおむね7年以上の経験が必要です。保育の現場でリーダーシップを発揮し、チームをまとめる経験が求められます。
処遇改善補助金の受給
副主任保育士として認定されると、保育園に月額4万円の処遇改善補助金が支給されます。これは、副主任保育士への処遇改善手当として支給されますが、専門リーダーの数によって対象人数に制限があります。
保育士等キャリアアップ研修を受けるには?
指定された研修実施機関に申し込む必要があります。各都道府県にはそれぞれ指定された研修実施機関があり、参加希望者は所属する自治体や勤務先の保育園が定める手続きに従って申し込む必要があります。
保育士等キャリアアップ研修の対象者は、正社員だけでなく、契約社員やパート社員、派遣社員なども条件を満たせば参加することができます。
区市町村、指定保育士養成施設、そして就学前の子どもに対する保育に関する研修実績を有する非営利団体など、東京都内では様々な機関が保育士等キャリアアップ研修を開催しています。自治体や大学、専門学校、さらには非営利団体などが研修の場を提供しており、これにより幅広い参加者が様々な形で研修を受けることが可能です。
ただし、参加希望者が多い場合や予約が取れない場合もあるため、申し込みの際は早めに手続きを行うことが重要です。
保育士等キャリアアップ研修の受講手順
- 保育士等キャリアアップ研修を受講するための手順は、希望する研修プログラムを選択し、受講を希望する機関や団体のウェブサイトや案内を確認します。
- その研修プログラムの受講条件や必要書類、費用などを確認し、必要なものを用意してください。
- 受講申し込みを行い、申し込み書類や必要書類を提出します。
- 受講が承認された場合は、受講日程や会場などの詳細を確認し、受講に備えます。
- 研修期間中は、指示された教材や課題を準備し、講義や実習に参加しましょう。
- 研修修了後に必要な試験やレポート、実務経験の提出などを行い、修了証や資格を取得します。
保育士等キャリアアップ研修に関する注意点
給与の増額は保証されない
研修修了後の給料アップは、役職や保育園の給与状況に依存するため、必ずしも保証されないことに留意することが重要です。
給与加算の仕組みを理解する
給与加算は月額4万円と月額5千円の2つの種類があり、役職によって決定されます。ただし、保育園の給与状況によって異なるため、加算額が一定しないことに留意しておきましょう。
給与アップを期待する場合の心構え
研修修了後の給与アップを期待する場合は、保育園の給与政策や役職の空き状況などを事前に調査し、リアルな見通しを持つことが重要です。
ステップアップを目指す機会として活用する
保育士等キャリアアップ研修を積極的に活用し、自己成長や専門能力の向上や、キャリアのステップアップを目指すことを強くお勧めします。この研修は給与面での増加だけでなく、保育士としてのスキルや知識の向上、他の保育園への転職時の有利さなど、多くのメリットがあります。将来のキャリアアップを考える上で、この機会を有効に活用していきましょう。